第二回科学者京都会議声明(1963)

人類が初めて原子爆弾の惨禍を蒙った広島に近い竹原市に集まった私たち諸分野の科学者は、1年前、第一回科学者京都会議が行なった声明の意義と内容を再確認し、「キューバ以後の世界情勢」、「アジアの中の日本」、「科学者の社会的責任」に関する諸報告を中心として、3日間にわたる討議を行ない、全会の声明の中で指摘された諸点を含めて、さらに次の諸事項を深く検討しました。

(1) 昨年の科学者京都会議の声明の中で、私たちは大量殺戮兵器による戦争抑止政策の危険な性格を指摘し、この政策への反対の意志を表明しましたが、その後、キューバの危機の日々に、深淵のふちに立たされた戦慄すべき体験を経ました。抑止政策は最近では移動可能な核ミサイル基地の性格をそなえた原子力潜水艦を主体とする核戦略の形をとりつつあり、地球表面の全域にわたる基地網とあいまって、世界情勢はますます緊迫の度を加えつつあります。このような状況のもとでは、世界各国のすべての民衆は、少数の世界政策決定者によって、「人質」にされているといって過言でないでありましょう。

(2) いつ再び、キューバ危機のごとき事態が世界のいずれかの地点で発生しかねない、暗い情勢の中で、私たちはともすれば絶望感に襲われ勝ちであります。しかしながら、歴史は運勢ではなく、人間によって作られるものであることを私たちは想起したいと思います。このことは例えば、今世紀の初頭と現在という二つの時点における世界史の断面をくらべてみれば明らかになるでありましょう。今世紀の初頭の世界においては、社会改革の運動も民主主義の動きも、また科学者、芸術家、宗教者たちの営みも互いに全く孤立し、連帯感が欠けていました。この事情が戦争を可能にする大きな要因でありました。しかるに私たちの立つ現在においては、国境を越えた連帯間に結ばれた広範な大衆の平和運動が科学者、芸術家、宗教者たちの努力とあいまって国際政治に影響を与えうるまでに育ってきています。

(3) 前回の声明において、私たちは戦争放棄を明記した日本国憲法第9条の大きな意義を指摘しましたが、平和を創造するための指針として、日本国憲法がますます大きな現実的意義をもつに到っていることを重ねて強調いたします。

(4) キューバ危機に際して、国際連合は偉大な貢献をしましたが、私たちは国連の将来の役割に大きな期待を抱くが故に、国連のあり方についてあえて二、三の問題を提起したいと思います。
国連はその憲章の第51条と第52条によって自衛権と地域的集団安全保障の権利を認めておりますが、現実には東西両陣営の敵対する軍事ブロックがこれに準拠して設けられ、これらの条項はあたかも冷戦と核兵器の脅威とを公然と制度化した観を呈しています。たまたま、再来年は国連設立の20周年に当たり、憲章を再審議すべき最もよい機会であります。現在の国連憲章が核兵器出現以前につくられたものであることを想起し、上記のような不合理な事態を排除するとともに核時代に国連が世界平和維持のため、有効迅速に対応できるようその在り方に再検討を加えるべき時期が到来していると考えます。さらにまた、中華人民共和国の加盟を実現することが国連本来の在り方に沿うゆえんであることを主張したいと思います。

(5) アジアにおいては、アメリカ合衆国と中華人民共和国の間に敵対状態が十数年にわたって続いております。この状態の存在は、アジアにおける緊張の根源であり、世界平和の創造にとって著しい障害になっています。
日本が核非武装の原則を貫き、いっさいの核兵器のもち込みを拒否することは、単に日本が戦争に巻き込まれる危険を減殺するだけでなく、アジアにおける核戦略体制の恒久化を阻止するのに有効であり、世界平和に対する日本の大きな貢献となるでありましょう。

(6) 第一回科学者京都会議以後、軍縮と日本経済との関係をはじめ、いくつかの問題についての検討が進行しつつあることは、私たちを大いに勇気づけるものであります。もともと科学者の社会的責任に対する意識は、主として、原子物理学の発展とともに成長して来たものでありました。しかし、平和の創造という課題に対しては、イデオロギーや方法論の違いを越えて、人文・社会・自然の全分野の科学者が相互の協力を通じて、その社会的責任を果たすことが、さし迫った必要事であると考えます。
さらにまた、長い文化交流の伝統をもつ中華人民共和国をはじめ、アジア諸国の科学者の協力をうる可能性を検討することも私たち日本の科学者にとって将来の重要課題の一つであります。

(7) 今日、社会に対して巨大な影響力をもつものとなった科学が悪用される場合を考えると、科学者として責任の重大さを身にしみて感ぜざるを得ません。私たちは科学の悪用を防ぐ力と倫理とが社会に拡がりつつあることに勇気づけられ、さらに科学者が悪の生産者とならず、科学により発見された真理を真に人類の幸福と世界の平和にのみ役立たせるために、すべての人々と共に進みたいと思います。

 

1963年5月9日 広島県竹原にて

江口朴郎 久野収 坂田昌一 佐久間澄
末川博 田中慎次郎 朝永振一郎 野上茂吉郎
三村剛昂 三宅泰雄 湯川秀樹

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